社内で長年使い続けているFileMakerベースの業務システムは、今も多くの会社で現役の仕組みとして動いています。顧客管理、案件管理、受発注管理、見積作成、在庫管理、点検記録、予約管理、日報入力など、さまざまな業務を支えるために、20年以上前に構築されたFileMakerファイルが、そのまま社内の基幹業務を担っているケースは少なくありません。
導入当時のFileMakerは、非常に魅力的な選択肢でした。画面を比較的自由に作りやすく、帳票も出しやすく、ちょっとした業務システムであれば短期間で形にしやすかったからです。プログラム専業の開発会社ではなくても、社内担当者や外部の個人開発者が、自社の業務に合わせた仕組みを作りやすいという特徴もありました。そのため、「市販ソフトでは合わないが、大規模な開発をするほどではない」という業務に対して、FileMakerは非常によく使われました。
しかし、20年以上手つかずのまま使われているFileMaker運用には、見えにくいリスクが多く潜んでいます。最初は便利だったはずの仕組みが、業務量の増加、担当者の入れ替わり、OSやサーバー環境の変化、周辺システムとの連携の必要性、働き方の変化によって、今の会社の運用に合わなくなっていることがあるからです。しかも、FileMakerは「今も動いているように見える」ため、問題が表面化しにくく、気づいたときには深刻化していることもあります。
大切なのは、「まだ使えているから問題ない」と考えないことです。本当に見るべきなのは、止まる前から出ている小さな危険信号です。この記事では、20年以上手つかずのFileMaker運用が抱えやすいリスク、なぜそれが問題になりやすいのか、どのような兆候が見直しのサインになるのか、そしてどう改善を進めるべきかを、実務目線でわかりやすく整理します。
なぜ古いFileMakerシステムは長く残りやすいのか
古いFileMakerシステムが長く残る理由は、単純に「使いやすいから」だけではありません。むしろ、業務にぴったり合わせて作られているため、簡単には置き換えられないことが大きな理由です。市販のSaaSやパッケージソフトでは対応しにくい入力画面、一覧表示、検索条件、帳票レイアウト、ボタン操作、処理手順が、FileMakerの中に細かく作り込まれていることが多いからです。
しかも、そのFileMakerシステムは、長い年月の中で少しずつ修正されてきていることがほとんどです。レイアウトが追加され、フィールドが増え、スクリプトが継ぎ足され、計算式やリレーションが複雑になり、気がつけば「全体構造を正確に説明できる人がいないが、何とか運用は続いている」という状態になっていることがあります。
この状態になると、現場としては「触ると壊れそう」「今の担当者しか分からない」「新しい人に渡しても直せない」「忙しいので後回しにするしかない」となりやすくなります。その結果、本来なら数年前に見直すべきだった仕組みが、そのまま使い続けられることになります。問題は、それが単なる“古いシステム”ではなく、会社の重要な業務を支える社内システムになっていることです。
20年以上手つかずのFileMaker運用が抱える代表的なリスク
長年見直されていないFileMaker運用には、いくつかの代表的なリスクがあります。それらは一つだけで問題になるというより、複数が重なって業務全体の不安定さを高めていくことが多いです。
担当者依存が非常に強くなる
もっとも典型的なのは、構築や改修の経緯を理解している人が限られてしまうことです。どのレイアウトがどの業務に対応しているのか、どのスクリプトが何をしているのか、どの計算式が帳票や集計に影響しているのかを説明できる人がいない状態は非常に危険です。見た目は使いやすい画面であっても、その裏側では複数のテーブル、リレーション、スクリプト、スクリプトトリガ、計算フィールドが複雑に絡んでいることが多く、少しの変更でも影響範囲が読めないことがあります。
FileMakerのバージョンやOS依存の問題が起こりやすい
古いFileMakerシステムは、作られた当時のバージョンやOS環境を前提にしていることがあります。そのため、パソコンの入れ替え、macOSやWindowsの更新、FileMaker Serverの更新、ネットワーク環境の変更などがきっかけで、不具合が表面化することがあります。以前は問題なく印刷できていた帳票が出なくなる、PDF出力がおかしくなる、外部連携が動かなくなる、急にパフォーマンスが落ちるといったことも起こり得ます。
小さな仕様変更にも対応しにくくなる
FileMakerは柔軟に作れる反面、場当たり的な改修を重ねると、全体構造が複雑化しやすいです。帳票に項目を一つ足したい、検索条件を増やしたい、一覧に列を追加したいといった小さな変更でも、レイアウト、スクリプト、印刷設定、集計処理まで影響することがあります。その結果、「少し直したいだけなのに、触るのが怖い」という状態になりやすくなります。
パフォーマンスの低下が業務負担につながる
20年前の業務量を前提に作られたFileMakerシステムは、今のデータ量や利用人数に合っていないことがあります。レコード件数が増え、検索が遅くなり、一覧表示が重くなり、帳票出力に時間がかかるようになると、現場では「待つ時間」が増えます。この待ち時間は、単なる不便ではなく、業務全体のストレスや生産性低下につながります。
バックアップと復旧の考え方が曖昧になりやすい
古いFileMaker運用では、バックアップが「たまにファイルコピーしているだけ」になっていたり、サーバー側の自動バックアップが本当に復元可能なのか検証されていなかったりすることがあります。万が一、ファイル破損やサーバートラブルが起きたとき、どこまで戻せるのか、どれくらいで復旧できるのかが不明なまま運用されていると、事業継続上の大きなリスクになります。
FileMakerだからこそ起きやすい見えにくい問題
FileMakerの怖さは、「使う側には分かりやすく見える」ことにあります。フォームがあり、一覧があり、ボタンを押せば登録でき、帳票も印刷できるため、利用者から見るとしっかりした業務システムに見えます。しかし、その裏側の構造が整理されていないと、見えないところで多くの危険が蓄積していることがあります。
レイアウトとスクリプトの増殖で全体が見えなくなる
FileMakerは画面を作りやすい反面、レイアウトが増えやすいです。業務ごとに別画面を追加し、過去の処理を残したまま新しい画面を足し、似たような機能が複数存在している状態になると、利用者も管理者も「どの画面を正とすべきか」が分かりにくくなります。スクリプトも同様で、似た処理がいくつも存在し、修正時にどれを直すべきか判断しにくくなります。
周辺業務がFileMakerの外へ漏れ出す
FileMaker本体だけでは足りない部分を、Excel、紙、メール、チャットで補っているケースも多くあります。たとえば、FileMakerに登録したあとExcelで集計し直す、帳票を印刷したあと紙で承認する、検索できない条件を別紙で管理する、といった運用です。こうした周辺業務が増えると、「FileMakerを使うための追加作業」が増えていきます。
ライセンスや運用コストが見えにくくなる
古いFileMakerシステムは、長年同じように使っているため、ライセンス費用、保守費用、サーバー運用コスト、障害時の対応コストが妥当なのか見直されていないことがあります。表面的には維持できていても、「今の業務に対して最適な費用のかけ方なのか」は別問題です。
こんな状態なら見直しを急いだ方がよい
次のような兆候がある場合は、「そのうち考えよう」ではなく、早めの見直しを検討した方がよい状態です。
- 中身を理解している人が一人しかいない
- FileMakerの更新やPC更新が怖くてできない
- 同じような画面や帳票が複数ある
- 少しの修正でも外部へ頼らないと対応できない
- 検索や一覧表示が遅い
- FileMakerの外でExcelや紙の補助運用が増えている
- バックアップからの復元手順が不明である
- 障害時にどこへ相談すればよいか分からない
これらは、単に「少し古い」という話ではありません。業務継続、属人化、データ保全、将来の改修可能性に関わる重要な問題です。
なぜ今のうちに見直すべきなのか
古いFileMakerシステムは、壊れるまで使われがちです。しかし、本当に怖いのは、壊れてからでは遅いことです。担当者の退職、サーバー故障、OS更新、Office連携の変更、ネットワーク環境の変更など、どれも普通に起こり得ますが、そのタイミングで急に不具合が表面化することがあります。
しかも、その時点で慌てて見直そうとしても、通常業務を止めずに移行を進めなければならず、整理も不十分なまま対応することになりやすいです。つまり、「まだ動いているうち」に整理を始めた方が、結果として安全で、費用対効果も高くなりやすいのです。
いきなり大規模開発しなくてよい理由
FileMakerを見直すと聞くと、すぐに全面刷新や大規模なシステム開発をイメージすることがあります。しかし、最初からそこまで大きく考える必要はありません。むしろ、いきなり全部を置き換えようとすると、今の業務の中身を十分に整理できず、使いにくい新システムになることがあります。
大切なのは、まず「そのFileMakerが何を担っているのか」「どこにリスクがあるのか」「どの部分が一番負担になっているのか」を整理することです。たとえば、まずは設備台帳部分だけ、入力フォームだけ、帳票出力だけ、検索一覧だけというように、一部から見直す方法でも十分に意味があります。
小さく始めることで、現場の理解を得やすくなりますし、本当に必要な機能を見極めながら進めやすくなります。
小さく始める改善ステップ
1. FileMakerが担っている業務を整理する
まずは、そのFileMakerが何のために使われているのかを明確にします。入力、検索、一覧確認、帳票出力、集計、共有など、実際の役割を書き出すことで、見直し対象が見えてきます。
2. FileMakerの外で発生している手作業を見つける
その中から、Excelで再集計している部分、紙で補っている部分、メールで個別に調整している部分を探します。こうした周辺作業は改善効果が出やすいです。
3. 属人化している部分を洗い出す
「この人しかレイアウトを直せない」「この人しか帳票の出し方を知らない」という工程があれば、そこは優先的に見直すべきポイントです。
4. 一部だけを対象に改善する
最初から全部を変えようとせず、まずは入力部分だけ、台帳部分だけ、帳票部分だけというように一部から改善します。その方が進めやすくなります。
5. 効果を見ながら段階的に広げる
一部の改善で効果が出たら、その考え方をほかのレイアウトや業務にも広げていきます。こうすると、無理なく全体の安定性を高められます。
まとめ
20年以上手つかずのFileMaker運用は、表面上は動いているように見えても、担当者依存、環境依存、ブラックボックス化、改修困難、パフォーマンス低下といった多くのリスクを抱えています。しかも、それらは日々の小さなエラーや確認作業、手作業の増加の中に潜んでいます。
大切なのは、「まだ使えているから大丈夫」と考えないことです。今の業務に対して、そのFileMaker運用が本当に合っているのか、どこに無理が出ているのかを整理することが重要です。そして、いきなり全部を変えるのではなく、危険度が高い部分、負担が大きい部分から小さく見直していくことが現実的です。
FileMakerは、長年会社を支えてきた便利な仕組みである一方で、見直しが遅れるほど対応が難しくなりやすい側面があります。だからこそ、壊れてからではなく、まだ動いている今のうちに、まずは現状の運用を整理し、何がリスクになっているのかを見える化することから始めてみるのがおすすめです。
古いFileMaker運用のリスクを整理したい方へ
「長年使っているFileMakerがあるが、中身を理解している人が限られている」「今は動いているが、更新や担当者交代が不安である」「どこから見直せばよいのか分からない」――そのようなお悩みがあれば、まずは現在のFileMaker運用や業務の流れを整理するところからご相談いただけます。
今お使いのFileMakerファイルや周辺業務の流れをもとに、どの部分にリスクがあるのか、どこから小さく見直すと効果が出やすいかも含めてご提案します。


