複数のSaaSを使って逆に業務が複雑になるケース

Saas

業務改善を考えたとき、まず候補に上がりやすいのがSaaSです。初期費用を抑えやすく、導入も比較的早く、すでに完成した機能をすぐに使い始められるため、多くの会社にとって魅力的な選択肢です。顧客管理、勤怠、経費精算、チャット、ワークフロー、在庫、受発注、会計など、それぞれの分野ごとに便利なサービスが用意されており、「まずは必要なものを入れてみよう」と考えるのは自然な流れです。

しかし、SaaSは一つひとつが便利でも、それを複数組み合わせて使うことで、逆に業務が複雑になってしまうケースがあります。最初は「この機能だけ使えれば十分」と思って導入したものが、数年後には社内に5つも6つも増えていて、結果として現場では「どこに何を入力すればよいのか分からない」「情報が分散している」「結局Excelでまとめ直している」という状態になってしまうことがあります。

つまり、SaaSそのものが悪いわけではありません。問題は、業務全体の流れを整理しないまま、個別最適でツールを足し続けることです。すると、便利なはずのSaaSが、かえって確認作業、転記作業、照合作業、社内調整の手間を増やしてしまうことがあります。この記事では、複数のSaaSを使うことで逆に業務が複雑になりやすいケース、なぜそのようなことが起きるのか、見直しのサイン、そしてどう考えるべきかを、実務目線でわかりやすく整理します。

なぜ複数のSaaSが増えやすいのか

複数のSaaSが増えやすい理由は、とても分かりやすいです。各業務ごとに見ると、それぞれのSaaSが「ちょうどよく見える」からです。たとえば、営業部門は顧客管理ツール、経理は経費精算ツール、人事は勤怠管理ツール、総務はワークフローツール、現場は日報ツールというように、それぞれの部署で必要なものを個別に導入していくと、その場では合理的に見えます。

しかも、SaaSは導入しやすいため、「とりあえず試してみる」「まずはこの部署だけ入れてみる」という判断がしやすいです。大規模な開発プロジェクトと違って、比較的短期間で始められるため、現場の困りごとに対する応急処置としても使われやすいです。そのため、会社全体の業務フローを整理する前に、困りごとごとにツールが増えていくことがあります。

問題は、その積み重ねです。最初は一つだけだったものが、いつの間にか別の部署でも別のSaaSを使い始め、さらに連携しきれない部分をExcelで補い、最終的には「システムを増やしたのに、なぜか仕事が減らない」という状態になってしまうことがあります。

複数のSaaSで業務が複雑になる典型的なケース

複数のSaaSを使うことで業務が複雑になりやすいのは、単にツールの数が多いからではありません。情報の流れが分断されることによって、人がその間を埋める必要が出てくることが大きな原因です。

同じ情報を複数のSaaSへ入力している

よくあるのが、同じ顧客情報や案件情報を、複数のSaaSへそれぞれ入力しているケースです。たとえば、営業管理ツールに入力した内容を、請求管理ツールにも入れ、さらにワークフローにも必要事項を登録する、といった流れです。これでは、どのツールも使っているのに、現場では二重入力や三重入力が発生します。

この状態になると、入力の手間が増えるだけでなく、更新漏れや情報の不一致も起こりやすくなります。あるツールでは最新だが、別のツールでは古い情報のままという状態は、日常的な混乱の原因になります。

ツールごとに見なければならない画面が違う

一つの業務を進めるために、複数のSaaSを行ったり来たりしなければならないケースもよくあります。たとえば、申請はワークフローSaaS、承認後の実績登録は別ツール、請求確認は会計SaaS、進捗確認はチャットというように、確認先が分かれていると、業務そのものよりも「どこを見ればよいかを思い出す作業」が増えてしまいます。

これは、慣れている担当者なら何とか回せても、新しい人には非常に分かりにくい状態です。結果として、属人化も進みやすくなります。

連携できない部分を人が埋めている

SaaS同士が完全に連携できればよいのですが、実際にはそう簡単ではありません。API連携ができない、できても必要な項目が足りない、連携設定が複雑すぎる、運用ルールが一致しない、ということがよくあります。そうなると、その間を人が埋めることになります。

たとえば、AのSaaSからCSVを出して、Excelで整形して、BのSaaSへ取り込む、というような運用です。これは一見すると仕組み化されているように見えて、実際にはかなり手作業です。しかも、担当者しか分からない処理になりやすく、エラーが出たときに止まりやすいです。

結局Excelがハブになっている

複数のSaaSを導入した結果、むしろExcelが最後の統合場所になっているケースも多くあります。各SaaSからデータを出力し、Excelでまとめ、会議資料や月次資料を作るという流れです。これは「システム化したのに、結局最後は手作業で集約している」という状態です。

この場合、SaaSの月額費用を払っている一方で、集計や確認のための労働力も使っています。見た目にはデジタル化されていても、実態としては業務負担が減っていないことがあります。

一見便利でも、現場の負担が増える理由

複数のSaaSで業務が複雑になる本質的な理由は、「ツールごとの最適化」が「業務全体の最適化」にはなっていないからです。SaaSは、それぞれの領域では便利です。しかし、会社の実務は、営業、申請、承認、在庫、経理、報告のように、複数の工程がつながって動いています。そのつながりを無視して、部門ごとに最適なツールだけを入れると、部門間の境目で無理が発生しやすくなります。

そして、その無理を埋めるのは、たいてい人です。 「ここは手で転記する」 「ここはメールで補足する」 「ここはExcelでまとめる」 「ここは口頭で確認する」

このような補完作業が増えると、ツールを増やしたはずなのに、現場の負担は減らないどころか、むしろ増えることがあります。つまり、システム費用として見えている月額料金の裏で、労働力という見えないコストが積み上がっているのです。

こんな状態なら見直しを考えた方がよい

次のような状態がある場合は、複数のSaaSによって業務が複雑化している可能性があります。

  • 同じ情報を複数のSaaSへ入力している
  • 一つの業務のために複数画面を行き来している
  • SaaS同士の間をExcelでつないでいる
  • どのツールが正なのか分かりにくい
  • 集計のたびにCSVを出して加工している
  • 新しい担当者が覚えるまでに時間がかかる
  • 部門ごとに違うツールを使っていて話がつながりにくい
  • SaaSの数は増えたのに、現場の忙しさは減っていない

これらは、単なる「使い方の慣れ」の問題ではなく、業務フローとツール構成が合っていないサインです。

SaaSを減らせばよい、という単純な話ではない

ここで誤解してはいけないのは、「SaaSが悪い」という話ではないことです。SaaSは、使いどころが合っていれば非常に有効ですし、標準化された業務では非常に強い選択肢です。問題は、SaaSをいくつ使っているかではなく、業務全体の流れの中でどう位置づけられているかです。

たとえば、会計や勤怠のように比較的標準化しやすい領域はSaaSが合いやすいです。一方で、自社特有の申請ルート、独特な受発注フロー、細かい社内ルールがある場合は、そのまま複数のSaaSへ分けると、かえって人の補完作業が増えることがあります。

ですから、単純に「SaaSをやめる」「独自開発に全部切り替える」という話ではありません。まずは、どこで情報が分断されているのか、どこを人が埋めているのかを整理することが大切です。

見直すときに重要なのは「業務の流れ」を見ること

複数のSaaSを見直すときに重要なのは、ツール単体ではなく、業務の流れ全体を見ることです。 たとえば、

  • 受注してから請求まで、どのツールを経由しているか
  • 申請してから承認・記録まで、どこで手間が発生しているか
  • 店舗、現場、本部、経理の間で、何がどう受け渡されているか

このように流れで見ると、「このSaaSが悪い」のではなく、「このつなぎ目に無理がある」ということが見えてきます。改善すべきなのは、ツールの数そのものではなく、情報の流れが途切れている部分です。

いきなり全部を統合しなくてもよい

複数のSaaSを見直すと聞くと、すぐに全部を統合する大きなシステムを考えてしまうことがあります。しかし、最初からそこまで大きく進める必要はありません。むしろ、いきなり全部を一つにしようとすると、話が大きくなりすぎて動けなくなることがあります。

大切なのは、まず「一番無駄が大きいところ」「一番確認が多いところ」「一番転記が多いところ」を見つけることです。たとえば、

  • まずは申請と承認の流れだけを整理する
  • まずは受注から請求までの転記を減らす
  • まずは集計のためにExcelへ出している処理を見直す

といった小さな改善から始める方が現実的です。小さく見直すことで、本当に統合すべき部分と、そのままでよい部分が見えやすくなります。

まとめ

複数のSaaSは、一つひとつを見ると便利でも、組み合わせ方によっては逆に業務を複雑にしてしまうことがあります。特に、業務全体の流れを整理しないまま、部署ごとに個別最適でツールを増やしていくと、その境目で人の手作業が増えやすくなります。

その結果、同じ情報の二重入力、ツール間の確認、Excelでの集約、メールでの補足、口頭での確認といった「見えない運用コスト」が積み上がっていきます。一見するとSaaSの月額費用は安く見えても、その不足分を現場の労働力で埋めているなら、本当の意味では安いとは言い切れません。

大切なのは、SaaSをいくつ使っているかではなく、業務全体の流れの中でどこに無理があるのかを見ることです。そして、いきなり全部を変えるのではなく、確認や転記が多い部分から小さく見直していくことが現実的です。

「便利なツールを増やしたはずなのに、なぜか仕事が減らない」と感じているなら、それは現場がツールの隙間を埋め続けているサインかもしれません。そうした見えないコストを整理することが、本当の業務改善の出発点になります。

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